スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
「いい家柄の相手との結婚は恩返しにはならないんですか?」
音楽もなにもない。
走行音だけが聞こえる車内で、私は少し遠慮がちな声で問いかけてみた。
すると識嶋さんは頭を振って即答する。
「ならない。父は今回の縁談にはあまりこだわりがない。こだわっているのは母だ。とりあえず会って来るが、恋人がいるとは伝える。いいな?」
確認を取ってくるけど、これはもうすでに約束したことだ。
私に拒否権はない、のだけど。
「あの、やっぱり私じゃ役不足だと思うんですけど……」
どこぞのご令嬢と比較されたら一発で私のKO負けは確実。
想像しただけで申し訳なさでいっぱいになり、つい弱音を吐いてしまった。
識嶋さんはそんな私を見て呆れたようにため息を吐き出して。
「そうだな」
グサッと私の心臓を一突きする。