闇に咲く華
驚いて反射的に後ろに下がろうとした身体は、背中の壁で阻止される。
イヤフォンで周囲の音をシャットダウンをしていたので、近づく白玖に気付かなかった。
「なにしてんだ?」
イヤフォンを取り、顔を上げると、私の視界に入るため屈んでいた白玖も身体を起こした。
「鍵……忘れて」
「家、入れねえのか」
「うん。しかも雨降ってくるし」
「最悪だよな。俺、濡れた」
見ると、確かに白玖の髪やシャツは雨に濡れている。
いつもは輝いている髪も、今はしっとりとしていて、水滴がポタポタと肩に落ている。
肌に少し張り付くシャツが、普段ならわからない白玖の身体を浮き上がらせていた。
それが妙に色っぽく見えて、慌てて視線を逸らす。
なんだか、見てはいけないものを見たような気分になったから。
「お前は、ギリセーフだったみてえだな」
「うん、まあ」
「誰か帰って来んのか?」
自分の家の方へと歩いて行く白玖に聞かれるから。
「帰っては来るだろうけど……」
「けど?」
「遅いみたい」