LALALA
「彼氏、って言おうとして、迷ってましたよね」
「か、彼…、か、ん?お連れ様、だって」


よっぽどツボだったのか、芝崎さんは顔を両手で覆って笑っている。


「さすがに俺、季里ちゃんの彼氏には見えないよね。年が離れ過ぎて」


目尻に浮かんだ涙を指先で掬って、再びワハハ、と笑う。


「確かに。芝崎さんはなんか、彼氏ではない感じですもんね」
「えっ、男として見られてないんだ、俺」
「いや、だって彼氏ってよりなんか侍っぽいですよ。お父さん侍」
「ちょ、ちょっと待ってよ!お、お父さん侍って、突っ込むとこ二重になってるから!」


店内に響き渡るほどの声で叫んだ芝崎さんは、注目を浴びてしまったことに気づいてハッとして、亀みたいに首を引っ込めた。


「芝崎さん、幾つなんですか?」
「36ですけど」
「え!45は固いかと思ってた!うち父が46なんで、同じくらいかな、って。ていうか私とちょうど一回りですね」
「まじ落ち込むわー。いろんな意味で立ち直れないわ。髪型でしょ?髪型のせいだよね?いいんだ、今度ばっさりいくから。髭も剃ったら若々しくなるから」


カウンターに突っ伏して、独り言を念仏みたいに唱えた芝崎さんが、ちょっぴり気の毒になる。
そんなとき、芝崎さんがひょこっと顔を上げた。


「やってみればいいのに、カットモデル。タダで切ってくれるんだよ?もしかしたら綺麗にメイクして雑誌とかに載れるかも」
「そういうの、興味ないかな。むしろ私なんかの顔が雑誌に載るなんて、場違いですよ。考えただけで恥ずかしいし」
「こら。」


上目遣いで私を見ながら、子供を叱るような口調で芝崎さんは言った。


「さっき言ったでしょ?ダメだよ、卑下するのは。自信を持って」
「そおーでした。」


ぞんざいな返事をした私に、よし、と微笑んだ。
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