LALALA
雨は窓を叩きつけるように激しい。
寝室の窓は閉まってたっけ。見に行った私は、博史が持ち帰りの仕事をするときに使っているデスクの上を、不意に見た。
引き出しから、紙がはみ出している。
開けてみると、挟まっていたのは雑誌だった。旅行雑誌。
「…夏休みのこと、考えてくれてんじゃん……」
みるみるうちに、視界が潤んだ。
仕事でも、女としても。
私は、自信がなくてそういう部分を仕方がないと、諦めようとしていたかもしれない。だから博史も、謙遜ばっかしてぐずぐずして面倒臭い私のことが、一緒に暮らしてるうちに嫌になってきたのかも。
担当する不動産の範囲が広くなって出張が増えたり、職場で先輩と呼ばれる責任ある立場になって、後輩のことをよく面倒みてあげるようになって。
それが偶然女の子で。
勘違いして、すれ違って。
今起きているのは、そういうことかもしれない。
負の感情と負のシチュエーションが、たまたま重なったってだけで。
私が変われば、まだ、間に合うのかな。
『さっき言ったでしょ?ダメだよ、卑下するのは。自信を持って』
思い立った私は、裸足のままレインブーツを履いて玄関を出た。
駅まで、走って何分だろう。
傘を広げながらスマホのデジタル時計を確認する。博史がよく帰宅するのに使っている電車が着くまでには、まだ結構時間があった。
逸る気持ちを抑えるため、私は立ち止まって深呼吸する。
道行く車から、水飛沫があがり、こっちに飛んできたので足元を見ると。
「あ。これ…」
私はしばらく逡巡してから、落ちていたものを拾った。
ちょうど、ポストの前だった。
よく、芝崎さんが箒で掃いているところ。
『その便箋、一枚貰ってもいい?良かったら、封筒も。』
私の手のひらに、舞い戻ってきた。
切手も宛先もない。
さっき芝崎さんにあげた封筒だった。