LALALA
同じ物は、そうそうないと思うんだ。だって、夏子が海外から買い付けてきた、一点ものと言っていた。モノトーンの幾何学模様。

裏返してみる。封はしてない。
重みから、中には便箋が入っているようだ。
ちょっとだけ隙間を開けて、中を覗いてみる。小さな手書きの字が見えた。


「……、」


私はどうしようか迷ったが、取り敢えず後で芝崎さんに返そう、と思い、それを持ったまま駅までの道のりを歩いた。


駅前のロータリーは、混雑していた。タクシー乗り場にも長蛇の列が出来ている。

風も強くなってきた。
傘を閉じた私は改札が見える場所で足を止めると、封筒を顎と首の間に挟んで、乱れた髪を結い直した。

ちょうど電車が着いたのか、たくさんの人が階段を降りてきて、改札に並ぶ。
靴擦れが痛いけど頑張って背伸びして私は、博史の姿を探す。今朝はジャケットは着て行かなかったから、白いワイシャツを着ているはず。

白い人ばっかり注視していたら、白い傘が、目に留まった。見覚えがある。花柄。

女の人が今現在手に持って、改札を抜ける。半歩ほど後ろには、渇望するほど探していた人物の姿。


「ひ__」


博史。
そう呼んだはずの、愛しい人の名前は、駅の雑踏に溶けて消えた。

二人は乗客たちの列から抜けると、柱の陰に隠れるように身を翻し、そして。「……っ…」二人の体が、重なった。
ドラマや映画のワンシーンのようだった。私はただの観客として、抱擁シーンを観ている。これは現実か、と神様に問いかけながら。

目の前を、改札を抜けた人々が通り過ぎるから、ときどき映像が途切れる。自分が通行人の邪魔になっていることにも気づかないほど、私は夢中で、目を凝らして博史を見つめた。
< 17 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop