LALALA
その状況は、駅で別れを惜しむ恋人たち、そのものだった。柱に背を預けた女に、博史が覆い被さる体勢で耳元でなにかを囁き、照れたように笑った女にとても自然な成り行きで、キスをした。


心臓が、ぎゅっと握り潰されたように痛い。乾いた目の奥から、涙が湧いてくる。
二人がこちらに向かって歩いて来る光景が目に入り、呼吸を荒くしながら俯いて後退りをする。

けれども。
足がすくんで、上手く動かない。

ドン、と誰かにぶつかって、相手の人がすみませんと、はっきりした口調で私に言った。悪いのは私の方なのに。
そう思いながら、唇を噛み締めながら顔を上げると。


「っ、」


目が合った。



どうして。
私が悪いことをしたような感覚にならなきゃいけないの。

どうして。
他の女とキスなんて。

私のことはもう、嫌いなの?
別れるの?私たち。

別れるの?


「あ、すいませ……大丈夫ですか?」


擦れ違い様に肩がぶつかった相手が、震えながら泣く不審な私を見て、張り詰めた声で言った。

大丈夫な訳ないじゃないか。と、心の中で悪態を吐きながら、私は頷いてまたふらふら歩き出す。
駅を出ちゃえば、外は雨雲のせいで日没が早くなったように暗くって、もう泣いてる私を訝しげな目で見る人はいなくなった。

悲しさと、悔しさで、涙がどんどん出てくる。

これからどうなるの。

別れる、別れない、許す?

私以外の女と抱き合ってキスしてた奴を、今まで平気で裏切ってきた奴を。

許して、また普通に今まで通り一緒に過ごせる?

朝のいってらっしゃいも、夕方のお帰りも。心待ちにしてた。大好きだった。
いつか、永遠に続くものになるんだ、って。信じてたのに。

いつか結婚するんだろうな、なんて。
当たり前に、思ってたのに。
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