LALALA
「ポストの前に、落ちてました。でも、切手も宛先もなしに出そうとするなんて、芝崎さんてばうっかりです」
「あ、ありがとう。そっか、落としてたか。ありがとう、季里ちゃん。拾ってくれて」
「いえいえ、雨に濡らしちゃって、すみませんでした。じゃあ」


浅く一礼して、私は踵を返す。
持ち主に戻ったのだから、めでたしめでたし。これにて一件落着。
と、思ったのだけど、


「季里ちゃん!?平気?」


それで終わり、とはいかなかった。
体が言うことを聞かない。


「大丈夫?歩ける?」


大振りで揺れた全身を、かしっと、芝崎さんが押さえてくれた。あと一歩で倒れるところだった。

そういえば私、丸三日くらいまともに寝てないんだった。
おまけに寒気もするし、久々に結構な距離歩いたから足腰に力が入らない。目眩がする。


「俺、部屋まで連れてくよ。もし途中の階段とかで行き倒れでもしたら責任感じるし」
「どうして芝崎さんが?責任なんて」


両肩を支えてくれた芝崎さんに、私は聞いた。


「俺、実はこの建物のオーナーなんだ。」
「、オーナー?」
「うん。だから入居者の安全を守りたいんです、なんて。ごめん、カッコつけた」
「そうだったんだ、知らなかった。芝崎さんが、オーナーなんだ」
「いんだよ、知らなくて」


私の体はほとんど浮いている、といっても良い。
芝崎さんが持ち上げてくれたお陰で、なんとか二階まで階段を上りきることが出来た。


「大丈夫?」


玄関のドアを開け、私が入るまで押さえてくれてた芝崎さんに、私は足元をふらつかせながら頭を下げた。「すみませんでし」た、と。言い切る直前。


「え…、将吾さん?」


私たちの後を追うように、階段を上って来たのは、博史だった。
コンビニで買ったのか、安物の黒い傘を片手に持って。
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