LALALA
面食らったような顔付きでお互い、ただ時が過ぎるのを待つ無意味な時間が過ぎる。
沈黙を破ったのは、芝崎さんだった。


「季里ちゃんね、今、下で倒れそうだったから。ここまで一緒に」


ね、と、私に目配せをする。
さっきまで体があんなに振り子かってくらいグラグラしてたのに、今度は固まってしまって動かない。ごくり、と唾を飲んだ。

博史が、帰ってきた。
今、目の前にいる。


「いいよ、言い訳なんて。」早足で残りの階段を上りきった博史は、玄関まで来ると、口角を意味ありげに引き上げて笑った。「もう、そんな必要ないから」


博史が来たので、半開きのまま押さえていたドアを芝崎さんは離す。対応に困ったように、顔を引き釣らせて、私と博史に「じゃあね」片手を挙げた。

玄関のたたきに一歩、足を踏み入れた博史は、ドアが閉め切らないまま。


「なぁんだ、季里も浮気してたんじゃん」


と。
気の抜けたような声で、呟いた。


「……」


浮気?
__私が?


「は?」
「俺が外回りで忙しいとき、こうやって男連れ込んでたんだ。まさか相手が将吾さんだとは思わなかったなあ」
「……」


耳を疑った。
目の前にいるこの人は、一体なにを話してるの?


「な、なにいってんの?私が芝崎さんと浮気?はあ?冗談でしょ」
「いつも家にいるんだから、連れ込んだ形跡を消すくらいお手のものだもんな」
「はあ?そんなことしてない、いい加減にして!」


私は強い口調で言った。
でもこのくらいで、大の男が怯むはずもない。さっきから博史は、なにがそんなに可笑しいのか薄笑いを浮かべている。


「先月の旅行だって、ほんとに女友達と行ったのかよ」


笑いながら、辛辣な言葉を連ねる。
なんだか、薄気味悪かった。


「本当は男と行ってたんじゃねえの?金なら持ってるんだろ?」
「……っ」


ああ、そっか。
嬉しかったんだね。

私も浮気してた、ってことにすれば、両成敗ってことで、自分の罪が軽くなると思ったのね、だから、笑ってたんだ。
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