LALALA
壁に寄り掛けてた背中が、ずるずると落っこちた。
玄関のたたきに、正座を崩した体勢でぺたりと座り込む。
どのくらい、そうしていただろう。
放心していた私の耳に、鈍い足音が聞こえた。
雨の音に混じり、段々大きくなってくる。ドアを隔てた向こう側で、その足音が止まった。
博史が、戻って来たのかな、と。
一瞬でも期待した自分はほんと、救いようがない。
「季里ちゃん、ちょっと、いいかな」
芝崎さんの声も、くぐもって聞こえる。
泣き叫んだせいで、鼓膜がおかしくなっちゃったのかな。
「季里ちゃん……、ごめん。こんなときに、無神経かもしれないけど、心配なんだ、君が。」
芝崎さんは、控えめな声で言った。
心配?
それはここのオーナーとしてだろう。
さっきの私たちの話し声、全部聞こえてたろうな。いい近所迷惑だったに違いない。謝らなければ。
意識して深めに息を吸って、吐きながら立ち上がる。
玄関のドアが、これほど重たく感じたことはこれまでに無かった。
「すみません、大声を出して…」
小さな幅で開けたドアの向こう。
「ううん、そんなことはいいんだ。」
芝崎さんは、いいオジサンなのに。
今にも泣き出しそうな顔で、ばつが悪そうに。
「もし嫌じゃなかったら。」
シャンプー、してあげようか?
って、変な口説き文句を口にした。
「痒いところはないですか?」