LALALA
理容室でシャンプーしてもらうのは、24年間生きてきて初めての経験だった。
てっきり、下を向いて洗うのかなぁと思っていたけど、違った。普通に美容室と同じで、仰向けだった。


「熱くないですか?」


私はふたつの質問に、まとめて「はい」と答える。
頭皮を揉むような、滑らかな指の動き。少々無骨な指先ではあるけれど、とても気持ちよくて、もしもリラックスできる状況であるのなら、夢見心地で本当に寝てしまうかも。

顔に掛けられた清潔そうな真っ白のタオルの奥で、私は顔を歪ませた。泣き喚くのを我満して、歯を強く噛み締めていたせいで、顎が痛い。鉄っぽい味がする。口の中、切れてるみたい。

不意に、博史もこんな風に芝崎さんにシャンプーしてもらってたのかな、と。頭に浮かんだ。
なにかを考えようとして、やっぱり考えるのを止めた。


「お疲れ様。今ブローするから」


シャンプーを終え、私は大きな鏡の前に座らされた。
「これで軽く拭いててもらえる?」芝崎さんにタオルを手渡され、私はいつもお風呂上がりにしているように、自分の髪をタオルで叩くようにわしゃわしゃ拭いた。


「痛」
「どうしたの?」
「ピアス、髪に引っ掛っちゃって…」


今日は、コットンパールのシンプルなピアスをつけていた。キャッチの部分に引っ掛かった長い髪を解く。
私の背後に立って、その様子を見ていた芝崎さんは、ふと思い付いたように、呟いた。


「髪、切ったげようか?」
「え……」


鏡越しに、目が合う。
思いがけない提案に、鏡の中の私はきょとんとした間抜けな顔をしている。


「どう?気分転換にいいんじゃない?」


言いながら、芝崎さんの両手が私の肩に乗る。
ぽんと軽い調子で叩かれて、なにかずっしりとした重石が外れたような、そんな魔法にでもかけられたような感覚が体の中に走った。


「そうだなぁ、思いきって短くしようかな」
「肩につかないくらいにカットして、耳に掛けた方がピアスが目立っていいかもね」
「私癖っ毛だけど、大丈夫かな」
「うん、任せて。緩いうねりを活かして、ちょっと前屈みにカッコ良くしよ」
「じゃあえっと、お願いします」
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