LALALA
ただ惰性で伸ばしていた髪がなくなっただけで、こんなに軽くなるんだ。ツキモノが、落ちたみたい。


「どう?新しいヘアスタイルは」


いい香りがするクリームでふんわりアレンジしながら、芝崎さんが言った。


「なんか、さっぱりした感じ」
「そっか、良かった」
「幼くなった?」
「いや。俺は、逆に大人っぽくなったと思うけど」


鏡越しではなくしっかりと目と目を合わせ、顔を覗き込むような窮屈な角度で、芝崎さんは優しく笑った。
ブローが終わり。


「俺が強引に勧めたんだから、お代なんて本当に要らないから」


と頑なに芝崎さんが言うので、私は掃除を手伝った。私が箒で、芝崎さんが塵取り係。

私は自分の髪の毛を集めながら、切ってもらってるときから思ってたことを口にする。「失恋して髪を切るって、ベタじゃないですか?」膝をついている芝崎さんが、「あのさ、季里ちゃん」あまりにも深刻な声でこちらを見上げたので「へ?」すっとんきょうな声が出た。


「手紙、読んだ?」
「え……。あの、落ちてた手紙?」
「うん…」


頷いた芝崎さんは、真剣な眼差しを、真っ直ぐ私に向けた。


「…見てないです、安心してください」


答えた私を、待たせる間が一拍あって。


「ひとつ、頼みがあるんだけど」


すくっと、芝崎さんは立ち上がった。


「季里ちゃん、モデルにならない?」


真向きに立った相手は、窺うように首を傾げた。
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