LALALA
確かに、いくら彼女がいないからって、女友達くらいはいるでしょう。昨日今日話すようになったばっかりの、しかも傷心中の私なんかより適役の人が、芝崎さんの回りにはたくさんいそう。

もしかして、あんまり親しくない人の方が、都合が良かったりするのかな。後腐れなさそう、とか。

……って、考えすぎか。


「たぶん、ちょうど良かったんじゃない?私が、たまたま」
「たまたまぁ?大丈夫なの?それ。どんな人なのよ、その芝崎さんって」
「えっと、侍みたいな、お父さんみたいな…」
「はあ?なにそれ。漫画のキャラクターとかじゃないよね?」


夏子が眉間に皺を寄せたときだった。

ペルシュのドアが開き、カウンターの中のマスターがそちらを見たのに釣られて、ちらりと見た。
すると、


「あ、季里ちゃん」


入店した人物が、私に向かって片手を挙げ、こっちに近付いてくる。
その動作をぽかんと見つめていた私は、相手がすぐ目の前まで来て、ようやくハッとした。


「えっ……、芝崎さん!?」


私の声に夏子も、えっ!という驚いた声を漏らす。そして私の目線を辿るように、背を向けていた相手を、振り向いて確認した。

そこに立っていたのは、長めの髪を耳が出るくらいカットして、無精髭を剃りすっきりとしたイケメンに生まれ変わった、芝崎さん。


「髪、切ったんですか?」


一瞬誰だか分からなかった。
トレードマークのちょんまげをばっさり切り、黒くて柔らかそうな髪の毛が、お洒落にセットされている。
色白で、スタイルがいいから、今日みたいなボーダーのカットソーを着ていれば、年相応の36歳、いや、もっと若く見えるかも…?

見違えちゃった。


「うん、切ったんだ。季里ちゃん、あんな暑苦しい髪のおっさんとじゃ、パーティー一緒に行くの嫌でしょ?」
「え、自分で?」
「まさか。親父んとこにね。俺、孝行息子だから売り上げに貢献してきてやったぜ」
「そですか、偉い偉い」
「あ、お友だち?邪魔してごめんね。俺、今休憩でコーヒーテイクアウトしたらすぐ行くから」
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