LALALA
「…芝崎さん、私」


深呼吸をする。


「実は、あの拾った手紙の中身、ちらっと、見ちゃったんです」


告白に、芝崎さんは声にならない息を漏らした。


「花絵さんに、返事を出そうとしたけど、出せなかったんでしょ?」
「……季里ちゃん、」
「なんだか私、芝崎さんの気持ちを知ってしまったから、すごく、苦しくて…。今日は一人で帰らせてください、お願いします」


モノクロの便箋。ポストの赤、愛車の白。
すみれのピアス。鈍色の空、神々しい光。

雨の匂い。

駆け出したら、いろんな色が目まぐるしくマーブル模様みたいに目の前で混ざって。


「季里ちゃん!」


最後に芝崎さんが私を呼び止める声が、もうずっとずっと遠くの方で聞こえた。



ね、芝崎さん。


『花絵は昔っから、不器用だからな』


不器用なのは、芝崎さんの方だったんじゃないですか?

ずっと一人だったのは、想いの届かない人に、憧れていたからですか?


『大切なものが他人の手に渡るのって、淋しくない?』


私は自分のことしか考えてなくて。自分だけが一番辛いと、勘違いして。
その言葉の裏に、どんな意味があるのか、全然気が回らなかった…。

ごめんなさい。

本当に強い人は、自分が大変なとき、他人に優しくできる人。
だとしたら私、まだまだとんでもなく甘ったれかもしんない。

仕事は掛け持ちして、一丁前な気分でもう、雨の中泣きじゃくった自分にさよならしたと強がって。

でも、苦しくて、しょうがない。

それは今現在、進行形で走ってるからとか、さっきまでの晴天が嘘みたいに空が低く厚い雲に覆われて湿気が濃いからだとか、だけじゃなくて。

だって、芝崎さんに救われたもの。
掛けてくれた言葉、ひとつひとつが。忘れられない、忘れたくない心の支えになってる。

嬉しかったから。

だから、苦しい。


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