LALALA
「…昨日も、朝突然降ってきて驚いたよね」
「つか、季里には雨が降ろうが関係ないだろ。一日中家にいれるんだし。それで贅沢な旅行が出来るくらい稼げるんだからほんと羨ましいよ」
「……」


私は無言で立ち上がると、皺がなくなったシャツをハンガーに掛ける。
ふんわりと、風に乗ってアスファルトが湿った匂いと、ビニールプールのような匂いがしたので、ちょっと背伸びして窓の外を覗いた。

そして、ハッとした。


「季里、窓閉めろよ。雨入ってくるだろ?」


私は直ぐ様言われた通り、窓を閉めた。
芝崎さんと、目が合った。透明の、ビニール傘越しに。

私たちの会話聞こえてたかな…。
こっちを見上げてるような格好だったし、博史の声に険があったから怒ってるっぽく聞こえて、喧嘩でもしてるんじゃないかとか、心配されてたりして。


「じゃ、いってくるわ」


着替え終えた博史が言うので、私は茶碗を洗う手を止めた。


「うん、いってらっしゃい」


博史は玄関で靴を履き、そのまま背中を向けたまま、ドアを開ける。階段の手摺にぶら下がる傘を、迷いなく手に取った。


「その傘、どうしたの?」


意識したつもりはないのに。声が震えた。


「借りた。会社の子に。」


じゃあ、と、白い花柄の傘を持った博史は言って、最後まで私を見ずに、階段を降りてった。
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