健診診断と恋と嘘

「み、耳元で囁くのやめてくださいって」


真っ赤になっているであろう私の顔を覗きこんで小塚さんが意地悪な笑顔を浮かべる。


「ああ、俺の声に感じちゃうんだっけか。でも、朔ちゃんも俺の名前忘れちゃったみたいだから。忘れてたの許してくれるよね」


そう言われてギクッとして視線をあらぬ方向に向ける私に小塚さんがクスクスと笑う。


「結城から朔ちゃんが俺の名前忘れてるっていうメールがきててさ。
振られたら慰めてあげますだってさ。あいつやっぱり嫌な奴だわ。
良かった、振られなくて。結城にだけは絶対に弱味握られたくない」


ゆ、結城さんの旦那さん。余計なことを……。


実験台にされたこと根に持ってんのかな。後で結城さんに言いつけてやる。あの人の弱点、結城さんしかなさそうだもの。


「まあ、でもずっと小塚さんだったもんね。教えることいっぱいだな。行くよ、朔ちゃん」


小塚さんにそう言われて、私は差し出された手を握る。


温かくて大きなその手に何だかすごく安心してしまって、私は初めて生まれてきたことを幸せだと感じていた。


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