それはとっくに恋だった
「お父さんにね、初めてエコー写真を見せたとき何て言ったと思う?」


母は突然そんなことを聞いてきた。


「エコー写真って、あの病院でもらうやつ?」


検診のたびにもらえる、白黒の赤ちゃんがうつっているものだ。


一瞬、初めてエコー写真を見たときのそっけない颯太の態度を思い出して、胸が痛んだ。


「わからない。何て言ったの?」


胸の痛みを押し殺して首を横に振った。



「『ただのマルだな』って言ったの。」


「え?」



「だから、『ただのマルだな』って。」


「・・・・・・それはなかなか」


「ひどいでしょ?」


私は頷いた。



父は無口な人だ。それでもそれはひどい。

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