フォーチュン
ビシューはバルドーより、少し規模の小さな国だ。
温暖な気候、そしてのどかな雰囲気は、バルドーと大差がないせいか、アンジェリークは、自分が国外へ脱出をしたという実感が湧かない。

空はまだ青く明るい。
私が王宮を抜け出したことは、もうみんなに知れ渡っているかしら。
母様と父様は、書置きを見たのかしら・・・。

うつむいて両手をギュッと握りしめたアンジェリークを、隣に座っているおねえさんがチラッと見た。

「ねえお嬢ちゃん」
「はい」
「今日はうちに泊まりなよ」
「え。でもそこまで・・・」と言いよどむアンジェリークを、おねえさんは無視して、「ね?いいでしょ?あんた」と、おねえさんの夫に賛同を求めた。

「俺は構わないよ。予備のベッドがないから、ソファで寝てもらうことになるが」
「それでも身分証がなかったら、ロクな宿に泊まれはしないよ」
「あ・・・」

そこまで考えていなかったアンジェリークは、現実的なおねえさんの意見にハッとした。

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