フォーチュン
ⅩⅨ
この日、アンジェリークとディオドラは、三ツ星程度の宿に泊まった。
そこはもちろん「要身分証提示」の宿だが、主(あるじ)夫婦とディオドラは「知人」なのだ。
・・・というのは表向きで、アンジェリークの宿泊料を多目に払う「裏技」を使うことで、アンジェリークも宿に泊まることができた、というのが真実だ。

「でもこれは、連れの片方がちゃんとした身分証を持ってなきゃ、できないことだよ」
「そうですか」

2晩続けてソファで寝た次の晩は、馬車の荷台で眠ったアンジェリークにとって、今晩ベッドで眠れることは、とてもありがたい。

「本当に、ディオドラさんには良くしていただいて。感謝してもしきれません」
「いいよ」

礼は十分すぎるほどもらってるからね。
それにここの宿代も、この子からまき上げた金で払ってるんだし。

「とにかく、無事にレアルタへ入れてよかった。明日プリウスまで行こう」
「ええ。でもディオドラさんの御用は・・・」
「アンをプリウスまで連れて行った後でも大丈夫だよ」

大体、ここに用なんてない。
後はグリアへ戻るだけだし。

そんなことはもちろん知らないアンジェリークは、ホッと安堵の笑みを浮かべると、「ではおねがいします」と言った。

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