漂う嫌悪、彷徨う感情。

「・・・中学を卒業して、真琴ちゃんたちとの関わりを一切なくしたくて、通学時間すら被らないように遠方の高校に行きました」

また、ポツリポツリと話し出すと、日下さんは『うんうん』と静かに相槌を打った。

「それからは平穏無事に生活をしていたんです。 もう会わなくて済むんだ。 これからは何にも脅えずに過ごせるんだ。 だから中学時代の事は忘れようって思ってました。 というか、記憶から消したかったんです。 高校・大学を卒業して、今の会社に入って、彼に出会って・・・。 彼が同じ市出身だと聞いて、ワタシと同じ歳の妹がいると言われたのに・・・。 彼、真琴ちゃんと同じ苗字なのに・・・幸せすぎて、頭の中がお花畑過ぎて気付かなかった。 彼が真琴ちゃんのお兄さんだった事」

勇太くんを好きになった事に後悔なんてしていないし、したくもないのに、それに似た感情が顔を出す。

「『佐藤』って、クラスに1人はいる珍しくない苗字だもんね」

日下さんが苦々しく笑った。
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