婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
そして、私にはなにも答えてくれないまま、社長との話はついたらしく、「じゃ、三十分後に」と口をへの字に曲げて呟いた。
ブチッと音が聞こえてきそうな手付きでボタンを押し、通話を終了させてしまう。


「あ、あのっ……!」


ふうっと肩で息をする樹さんの前に、懲りずに躍り出た。
質問はことごとく無視されたけど、話の肝だけは私もちゃんとわかってる。


「三十分後、親父の誘いでランチに出るから。それまで仕事続けてろ」


樹さんはそれだけを言い置き、PHSを卓上ホルダに刺すように突き立てた。
そして、明らかに不機嫌な様子でガシガシと乱暴に髪を掻き乱す。
綺麗に整っていた前髪がサラッと額に落ちるのを見つめて。


「あ、あの」


シッシッと手で払われながらも、私は食い下がって声を掛けた。


「私がお試し同居の様子を報告したら、なんかマズいんでしょうか……?」

「当然だろ。お前にありのままを報告されたら、お試し同居なんて全くもって無意味だってこと、親父でも見破るに決まってる。そしたら、三ヵ月後を待たずに婚約だお披露目だって、勝手にスケジュール組み出すのは目に見えてるんだ」


追い払った割にあまりに素直に丁寧な返事が返され、逆に私の方が苦笑した。
< 107 / 236 >

この作品をシェア

pagetop