婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「……はいはい。したよ。キス。それでいいだろ」


勢いよく背もたれに身体を預ける樹さんのその一言にドキッとして、私は思わず彼をジッと見つめてしまう。
樹さんは私の視線を鬱陶しそうに顔を背けているけれど……。


胸に、じんわりと温かいなにかが過った。


樹さんが認めてくれた。
いや、かなり言わされてる感満載だけど、それでも樹さんがそう言ってくれたことが嬉しくて、私はジーンとしてしまった。


だけど、感動に浸る私を置いて、社長と樹さんの応酬は続いていた。


「それなら、樹。婚約者をいつまでも名字で呼ぶのは不自然じゃないか?」


テーブルに肘を突き両手の指を絡ませて、上目遣いに向けられる社長の視線に、樹さんがムッと視線を返した。


「だから、俺はまだ婚約者だって認めてねーし」


ちょっと不貞腐れたようにそう言って、口元をナプキンで押さえながらプイッとそっぽを向いた。


ああ、どうしよう……。
私が余計なこと言ったせいで、また樹さんを不機嫌にさせてしまった。


居たたまれない思いで小さく肩を竦めるけれど、社長はまだ樹さんへの突っ込みをやめない。


「いつもの女と同じ感覚で遊べる相手じゃないことがわかってて手を出したんだ。もちろんお前にその気が生まれたからだろうが」
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