婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
そのやり取りに私が首を傾げていると、樹さんが出て行ったドアがノックされて、外から「失礼します」と声が掛けられた。


「……あっ……!」


ドア口に現れた姿に、私は思わず口を開けて声を出してしまっていた。
だって、それは数日前に樹さんと一緒にいた、あの美人。
樹さんに言わせると今年四十になる従姉妹さんだったから。


私の反応に、秘書の女性が目を細めて首を傾げる。
けれど社長に促されて、秘書さんは社長の傍に歩み寄った。


「お初にお目にかかります。私、社長の第二秘書を務めております、春海深雪(はるみみゆき)と申します」


私に向かって丁寧に頭を下げる秘書さんの名前に、思わずハッと息をのむ。


深雪、って、さっき樹さんが言ってた?
しかも春海って、やっぱりこの人……!


「い、いえ。私、お見かけしたことがあります」


膝の上のナプキンをぎゅっと握りしめながらそう返すと、彼女、深雪さんは、ちょっと困惑した表情で、え?と訊ね返してきた。


「この間の夜、樹さんと、その……」


この場ではさすがに『腕組んで歩いてた』とは言えず、私はモゴモゴと言葉を濁した。
けれど深雪さんの方はすぐに合点したように、「ああ!」と笑顔で声を上げた。
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