婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「そこまでいくとマゾだな、お前。それに、俺が言ったのは『打たれ強い』じゃなくて『打っても響かない』だったはずだけど」


呆れたような声に、更に拳に力を込める。
だけど、次に聞こえた彼の声が、とても優しく私の鼓膜をくすぐった。


「……でも、そういう異解釈出来るのがお前だったっけな」


そおっと顔を上げて、首を傾げて樹さんを見上げる。
同じタイミングで、樹さんが私に視線を移してきた。
彼の細めた瞳とまっすぐ視線がぶつかって、私の胸がドキッと一度音を立てた。


「なにをどう聞いたか知らんが、可哀想だとか同情は必要ないからな。俺はそういう教育を受けて育ったんだ。俺にとっての宝の定義がお前とどう違おうと、俺はそれを受け止めてる。将来の社長の座も別に望んだわけじゃないが、与えられる責任があるから俺にとって大切な物だ」


視線を逸らすことなく、樹さんは私にはっきりした低い声でそう言った。


「……生駒、お前も俺にとっては社長の座と同じだ。無理矢理押し付けられた物でも、受け入れるからには大事にする。しなきゃいけない。……だから、本気で受け入れる決意を固める前に、せめて三ヵ月だけでも足掻く時間が必要だったんだよ、俺には」
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