婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
なんとか笑顔を保つことが出来た。
でも、言い切った途端、堪え切れずに涙が伝ってしまう。
慌てて顔を背けたけれど、きっと樹さんには見られてしまったはずだ。


「す、すみません。それが私の気持ちです。我儘なこと言ってるってわかってますけど、私は……人権侵害のギリギリのラインで受け入れて欲しいなんて思えなくて。だから……」

「生駒」


それまでずっと黙って私の話を聞いてくれていた樹さんが、静かな声で私を遮った。
肩を掴まれ、そのまま強く引き寄せられる。


樹さんの腕の力に抗えないまま、涙で濡れた顔を彼にまっすぐ向けてしまった。
慌てて俯けて隠そうとすると、樹さんの手が頬に触れて、私の行動を簡単に阻む。


「い、いつ……」


無意識で呼びかけた声が、静かに飲まれていった。


頬に触れた樹さんの手に力が籠るのを感じた瞬間、目の前でサラッと彼の前髪が揺れた。
その奥で伏せられた睫毛がわずかに震えるのを見た時……。


「……っ!?」


唇に温もりを感じて、私は大きく息をのんだ。
裂けるんじゃないかと思うくらい目を見開き、近過ぎて焦点が定まらない樹さんの顔を見つめる。
< 129 / 236 >

この作品をシェア

pagetop