婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
横から伸びてきた筋張った手が、私の髪を撫でた後、指に通してサラッと梳く。
長い指からパラパラと零れ落ちる髪が頬を掠め、とてもとてもくすぐったい。


全身の末端まで神経を研ぎ澄ましておかないと、身体がビクッと反応してしまいそうだ。
下手したら変な声が漏れてしまうかもしれない。


制御出来ない反射反応まで抑え込もうと頑張っていたら、身体がプルプルと震え出した。
おかげで、さっきからずっと、樹さんの話はまったく理解出来ないまま、心地よい声が耳を右から左にスルーするだけ。


私の横目には、樹さんが長い指に私の髪をクルクル巻き付け、弄んでいる様が映り込んでいる。
そればかりがチラチラして、この甘い拷問開始から十五分経過した今もなお、私の脈泊数は上昇し続けている。


「……おい、帆夏」


樹さんが、手にしていた書類をバサッと音を立ててテーブルに置いて、空いた手で頬杖をついた。
軽く首を傾け、斜めの角度から私をジーッと見つめてるのがわかる。


それでも、私は既に呼吸まで止めて小刻みに身体を震わせていて、返事をすることも出来ない。
そんな私に、樹さんは肩を竦めて小さくクスッと笑った。


「お前、結構頑張るね。でも、俺が話したこと、ぜんっぜん頭に入ってないだろ」

「……」

「……返事も出来ないくらい、いっぱいいっぱいか」


からかうように呟いて、樹さんがようやく私の髪を指から解いた。
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