婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
呼び掛ける声に力を込めて、自分に発破をかけながら、私はズンズンと廊下を突き進んだ。
リビングに足を踏み入れて、途端にピタッと足を止める。


点けっ放しのテレビの前のソファで、樹さんがスラッとした身体を悠々と寝そべらせていた。
仰向けでお腹の上で行儀よく手を組み合わせて眠っている樹さんに、私はそっと歩み寄る。


どう見ても、テレビを観ながらうたた寝……っていうスタイルだから、声を掛ければ起きると思った。
ちょっと肩を揺さぶれば、目を覚ますと思った。


「樹さん……」

「……うん……」


なのに、樹さんはうわ言みたいな声を短く漏らすだけで、固く閉じた目を開きはしない。
声を漏らしたタイミングでわずかに開いた唇に無意識に目を向けて、私は小さくゴクッと喉を鳴らした。


寝てる……?
完全に熟睡してるよね……。


誰にともなく問い掛けながら、私は床に膝をついて、樹さんの穏やかな寝顔をそおっと覗き込んだ。
ジッと見つめてるうちに、さっきまでの気負いが和らぎ、高鳴っていた鼓動が穏やかになっていく。


樹さんの寝顔、初めて見た。
この間風邪を引いた時も、お粥を運んだ後は出てけって言われて、一晩中看病する気だったのに、拒否られてしまったから。
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