婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「えっ……?」

「せっかく寝たふりしてやったのに。仕掛けるだけで緊張してたんだろうし、勇気の出し損じゃん。もったいない」

「そ、そうです、けど……」

「寝てる相手にどんなに勇気出したって、なんの反応も返ってこないぞ」


目を細めて私を見つめる樹さんに、私は心臓を臨界点まで打ち鳴らす。


「で? ……俺の寝込み襲って、なにしたかったんだよ?」


顔を隠す私の両手をどけさせながら、樹さんが再び同じ質問をたたみかけた。
今度こそ誤魔化し切れない空気を感じて、私は樹さんから目を逸らしながら、ボソッと短く呟いた。


「お、思い出してただけです……」

「なにを」


短い言葉で容赦なく聞き質してくる樹さんに、私は思い切って口を開いた。


「キ……キス、されたこと」

「……はあ?」


樹さんの呆れたような声が降ってくる。
ここまできたら開き直って、私はしっかり樹さんの顔を見上げた。


「寝顔、可愛いなって思って見惚れただけなんです! 目が離せなくて、そしたらなんとなく口元に目がいっちゃって。……わ、私この人にキスされたんだなって思い出したらドキドキして。それでっ……!!」


勢いに任せてそう言って、私はギュッと手を握り締めた。


「……つい……触れたくなって」


あまりの恥ずかしさで顔から火が噴き出しそうになりながら、私は正直に白状した。
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