婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
同時に、会場全体の照明が落とされ、アナウンサーにスポットライトが当てられる。
マイクの前で招待客に向かって口上を始めるところを見ると、やっぱり彼が今日の司会者らしい。


招待客が歓談を止めて演壇に注目するのを待って、アナウンサーが本日のホストである社長を紹介した。
盛大な拍手を浴びて、奥まったドアから社長が姿を現す。
ライトを浴びながらまっすぐ演壇に向かう社長のすぐ後ろに、黒いタキシード姿の樹さんが付き従っていた。


前髪をしっかり後ろに流し固めた、いつもと違う見慣れないスタイル。
まっすぐ前を見据え、『経営者』の顔を見せる樹さんに、私は人見知りに近い感覚に襲われ、ドキッと胸を高鳴らせた。


会場内の若い女性招待客たちが、樹さんの姿を見て俄かに色めき立つのがわかった。
樹さんの後から父や、春海海運の取締役たちがずらっと並んで演壇に向かう中で、噂話を交わすひそひそ声が私の耳にも聞こえてくる。


「春海のご子息の樹さん、相変わらず見目麗しいわね」

「彼もそろそろいいお年頃ね。そう言ったお話はないのかしら」

「そう言えば先日、経団連会長のご息女も交えてお食事されたとか」

「現職大臣の娘さんが有力だとも聞きましたよ。いずれにしても、そろそろかしらね」
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