婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
そんな言葉にドキッとして、思わず辺りを見回してしまう私を置き去りにして、演壇に立った社長が招待客に向けて挨拶を始めた。
その間も樹さんは演壇の隅で直立していた。
わずかに伏せた目になにが映ってるのかわからない。


社長の息子としてこういう場に出席する樹さんを私も何度か見たことがあるけれど、なんだか今日の樹さんは纏う雰囲気がいつもと違う。
稀に見る豪華な発表会に萎縮したまま、心細さまでもが増幅されて、不安が募ってきてしまう。


社長の挨拶が終わり、事業統括部門の執行役員常務が、今日のメインタイトルであるクルーズツアー就航の発表を始めても、私はずっと樹さんの姿から目を離せないまま。
いつの間にか胸元で手をギュッと握り締めていて、手の平にうっすらと汗を掻くほどだった。


ツアーの概要や使用客船の施設・設備などは、大きなスクリーンに映し出されたプロモーション映像で紹介された。
まだイメージ映像の段階とは言え、国内でもトップクラスの豪華なツアー概要に、目の肥えた招待客たちから感嘆の声が漏れるのを聞いた。


「この後、実際に客船内をご紹介したいと思います。準備が整うまで、しばしご歓談をお楽しみください」


常務がそう言って発表を締め括ると、招待客から拍手が挙がった。
拍手が治まるのを待って、司会者がマイクの前に一歩移動したその時……。
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