婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「それから、この場をお借りしまして、お知らせしたいことがございます」


常務と入れ替わりに縁談の真ん中に立った社長の声が、マイクを通して会場全体に響き渡った。
一度演壇から逸れかけていた招待客の視線が、再び奥にまっすぐ注がれる中。
「樹」と社長に名前を呼ばれた樹さんが、小さく頭を下げてから社長の隣に歩を進め並んで立った。


演壇からまっすぐ招待客に向けられる樹さんの視線に、私はなんだか妙に胸が高ぶって、思わずゴクッと喉を鳴らしていた。
さっき噂話をしていた女性たちが、何事かとざわめき出すのがわかる。


「皆様、本日は弊社の事業発表会にお越しいただきまして、誠にありがとうございます。一社員として、また次期社長として、御礼申し上げます」


スッと背筋を伸ばし、まっすぐ顔を上げ、凛とした声を響かせる樹さん。


「こういう場で樹さんがご挨拶されるなんて、珍しいわね」


そんな声が私の耳にも入って来るけれど、確かに今まで私も樹さんの挨拶を聞いたことがなかった。


社長の息子ではあってもまだ経営に参画してるわけじゃなく、世間的に一社員だから、という理由を聞いたことがある。
今日みたいに終始社長のそばに付き従う姿も稀だったのに、日本の財政界、経済産業界の大物が揃った公の場でお知らせって――。
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