婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
その夜。
一晩中部屋のドアが開くのを恐れて眠れなかったのは、一つ先の部屋で眠っている樹さんが忍び込んでくるのを警戒していたからか、それとも期待だったのか……。


カーテンの向こうで空が白みだし、やがて夜が明け、妙に爽やかな鳥の囀りを耳にした頃には、一晩中ハリネズミみたいに神経を尖らせていた自分がとてもバカに思えて笑えた。


昨夜のアレは、酔っていたせいもあって、樹さんのいつもの意地悪がちょっとエスカレートしただけだろう。


オフィスの先輩たちや社長の言葉を聞いているだけでも、樹さんの女性関係はなんとなく想像出来る。
決まった彼女はいないみたいだけど、それは、自分の意志で結婚相手を決めることは不可能だと、心のどこかでわかっていたから。


でも多分……樹さんには、遊ぶのに困らない程度に、そういう関係の女性がいる。
たとえ本気じゃなくても、樹さんが相手にするくらいだもの、きっとものすごいスタイルのいい美人に違いない。
少なくとも、『お子様』と言われてしまう私じゃ、逆立ちしても敵わないような人――。


だから、私に夜這いをかけるような事態にはならないはず。
わかってるのに、ドアが開くのを警戒して一晩明かしてしまうなんて、自意識過剰過ぎておかしくなった。


それでも、高鳴り過ぎて苦しいくらいだった鼓動の理由は、そう簡単に頭から消え失せるものではない。
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