婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
そんな低い声がドア口から聞こえて、私はハッとしながら顔を上げた。
青木さんが開けっ放しで出て行ったせいで、樹さんが入ってきたことに全然気付けなかった。
途端に、一瞬サーッと全身から血の気が引くのを感じた。


「ど、どこから聞いてたんですかっ……」


反射的に後ずさって、私のお尻がテーブルにぶつかり、ガタンと音を立てた。


「『仕事休む羽目になったら』ってとこから」


樹さんは声と同様に不機嫌な表情で、シレッとそう言いながら会議室に入ってくる。


「って……割と最初からじゃないですかっ!」

「ああ、青木さんとほぼ入れ違いだったからね」


そう言って肩を竦められ、背筋に変な汗を掻いてしまった。
でも、聞かれたなら仕方ないから開き直る。


「ひ、独り言だって、樹さんのせいです。私今まで実家暮らしだし、いつも誰かしら話し相手もいましたもん」

「で?」

「せっかくのお休みなのに、一人で誰とも喋ることなく過ごすなんて、慣れてないし」


ブツブツと愚痴を続けながら、心の中で『樹さんは話しかけても半分以上は無視するしさ……』と付け加えたら、なんだか悲しくなってきた。
ジワッと涙がこみ上げるのを感じて、私はズビッと鼻を啜り上げて誤魔化した。
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