婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
青木さんはなにか取り繕うように早口で捲し立てて、私の肩に腕を回しクルッと方向転換しようとした。


「えっ?」


その様子に戸惑いながら、私は無意識で大きく後ろを振り返ってしまう。
そして。


「……あ……」


青木さんが私の意識をなにから逸らしたかったのか、わかってしまった。
足を止め大きく口を開けて立ち竦む私に、青木さんも肩を落として息をつく。


都会の広い車線の向こう側の通り。
そこに、樹さんの姿があった。
彼の隣には、私が見たことのない超スタイルのいい巻髪の美人。
彼女はその豊満な胸を押し付けるように樹さんの腕を抱き締めて、ぴったりと寄り添い歩いていた。


「……タイミング、最悪……」


ボソッと独り言のような青木さんの声に、私の胸が嫌に低い音でドクドクと打ち出した。


ううん、きっとタイミングとかじゃない。
もちろん、最悪でもなんでもなく……これが現実というだけのこと。


私が合コンに参加したって、他の男の人と一緒にいたって、樹さんはなにも変わらない。
好意の欠片も向けてもらえない私がなにをしたって、樹さんの心には届かないというだけで……。


慣れない下手な駆け引きなんかしたら、樹さんの心はもっと遠くなってしまう。
そう思い知らされ黙ったまま俯いて、私は身体の脇に垂らした両手をぎゅうっと握り締めた。
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