もしもの恋となのにの恋

寄せては返す波打ち際に俺は立ち、ぼんやりとそれを見つめていた。
ふと、その波の内に青く光る何かを俺は見つけた。
その光は毒々しいほど青く、怪しい光だった。
「・・・夜光虫か?」
俺はその時、初めて夜光虫と言うものを目にした。
面白いものが世の中にはあるものだ。
そんなことを心の内で呟いた時だった・・・。
不意に視線を感じた。
俺はその視線を感じる方へと目を向けた。
「・・・千鶴」
そこには千鶴がポツリと立っていた。
随分と痩せたな・・・。
一目でそうとわかるほど千鶴は痩せていた。
それでも俺は安心した。
千鶴は生きている・・・。
それは当たり前のことなのかも知れないがそれは当たり前のことではない。
俺は内心、千鶴は自殺するのではないかと疑い、思っていた。
だから安心した。
千鶴は生きている・・・。
だが、まだ安心はできない・・・。
「・・・秋人、どうしたの?」
久しぶりに聞くその千鶴の声は夜の波に掻き消されそうなほど小さく、覇気がなかった。
「・・・毎晩、ここに来てんだろ?一人で・・・」
俺の問いに千鶴は覇気なくクスクスと笑った。
まるで幽霊だな・・・。
そんなことを俺は心の内で思った。
「・・・そう。また忍に会えるんじゃないかと思って来てるんだけれど・・・全然、会えなくて。・・・秋人はあれから忍に・・・会えた?」
ヘラヘラ笑いながらそう訊ねて来た千鶴を俺はそっと抱きしめた。
それと同時に千鶴は大きな声でわんわんと子供のように泣き出した。
「・・・千鶴、ごめん。・・・ごめんな。・・・本当にごめんな・・・」
俺は何度となく千鶴に謝った。
千鶴は返事をすることなくただ、俺の腕の中で泣いていた。
忍は死んだ・・・。
もう、忍はここにはいない・・・。
もう、忍には会えない・・・。
辛い、悲しい、苦しい・・・。
そんな感情がごちゃ混ぜになって俺たちを支配しようとしていた。
このままではいけない・・・。
わかっている。
けれど、人はそれらからあっさり逃げ切れる術を知らないし、持ってもいない。
人はそれらから少しずつ逃げることしかできないのだ・・・。
人は無力だ。
そして、現実はいつだって残酷だ・・・。
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