冷徹社長の秘密〜彼が社長を脱いだなら〜
「でも、その思いは聞いていて嬉しかった。お前みたいな店員もいるんだな。まあさすがにそのボロボロの財布はショップ店員としては認められないけどな」


ボロボロの財布?ふと社長の視線の先を追うと、私が使っていた財布がカバンの中からチラリと見えていた。


どうせだから中身を入れ替えようと今使っているカバンを手に取り、赤い革の長財布を取り出した。


「ボロボロですよね。この財布は私が初めてバイト代で買った記念の財布なんです。そして、ジョルフェムを好きになったきっかけの財布なんです」

「・・・これも買ったのか?このバッグについてるチャーム」

社長はそう尋ねながら私のバッグについているチャームに触れた。

「このチャームは財布を買ったときに店員さんが特別にくれたんです。私、お店の中で1時間以上迷っちゃってて。他の店員さんは煙たそうな顔をしていたんですがその人だけがずっと優しく対応してくれて。その店員のお姉さんが特別にって私にくれた大切な宝物なんです」


そう言ってバッグからチャームを外し、手にとった。あの日のことは鮮明に覚えてる。そしてあの綺麗な店員さんはずっとあれから私の目標だった。

「社長?」

思い出に浸っていると左肩に重みを感じた。社長が私の肩にもたれかかっている。そう思うと身動きが取れなくなってしまった。


「・・・そうだったんだな。納得したよ。」

「納得?なんのことですか?」

「気にするな。そっか。そうだったんだな。今日は最低な一日だと思っていたけど、お前と会えて最高の一日になったよ」


社長の話をドキドキとしながら耳元で聞いていると、カバンの中の携帯が震える。


さすがに社長が隣にいるのに電話に出るのは失礼かと無視を決めかねていたけれど、一向に振動は止まらない。


「出ろよ。急ぎの用事かもしれないし」


スッと私の肩が軽くなり、社長に促されたので、申し訳ないと思いつつも携帯を手にする。そして、表示されている名前に動きが止まってしまった。


まさか、あいつから連絡が来るなんて。私の手の中でも振動は止まない。五分以上鳴っている。
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