冷徹社長の秘密〜彼が社長を脱いだなら〜
「・・・もしもし」


『やっと出た。おい、深月!今、聞いたけどお前、大丈夫なのか?』


馴染みのある少し掠れた声。相変わらずな大声に懐かしさも感じつつ、きっと、お母さんがさっき連絡したことをそのままあいつに話したんだろう。


「大丈夫。お母さんから聞いた?心配しなくてもいいよ」


『心配するなって言うのが無理だろ。事故に遭っただけじゃなく、家に空き巣が入ったなんて聞いて、心配しないやつなんていないだろうが!アホ!』


「りょう!うるさい!耳元で叫ばないで。だから捻挫だし、大したことないの!空き巣だって・・・」


そう言いかけた瞬間、左手からスルリとスマホが取り上げられた。そうだ、あいつと話してたからすっかりあいつのペースになっていたけれど、隣には社長がいたんだ。


いくら、本人と会話していなかったとはいえ、さすがにちょっと社長の前で失礼だったかもしれない。社長の表情も心なしか、少し怒っているようにも見える。


「心配しなくても、彼女のことはこれから俺が守りますのでご安心ください。事故を起こして、怪我をさせてしまった責任は取らせていただくつもりです。では失礼いたします」


社長はあいつにそれだけ言って勝手に電話を切ってしまい、私に電話を返してきた。


当然、電話はまた掛かってくる。表示された名前はさっきと同じ、稲村涼(いなむら りょう)。
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