冷徹社長の秘密〜彼が社長を脱いだなら〜
ガタンという音と共に感じる体の痛み。なんとなく、天井が高く感じる。視界も低い。

体を起こして、ようやく自分がベッドから落ちたことに気がついた。


結局、昨日は社長の言葉に首を傾げながらも、誰かと勘違いしていますよと言い出せなかった。でもほんの少しの時間だったけれど、夢のような出来事ばかりだった。


その夢からまだ覚めたくない。それにまだ、社長と一緒にいたい。そう思ってしまったから。


「おはよう、みぃ。よく眠れたか?」


「し、社長ですか?」


昨日、社長が部屋を出て行く前に、明日の朝、八時に迎えにくるからと言葉を残していった。だから身支度を整えて社長を待っていると部屋のベルが鳴り、ドアを開けると社長が立っていた。


いつもは整えている髪型も無造作になっていて、そして眼鏡。最初は気がつかなかった。


それくらい、別人になっていたから。



「言っただろ?眼鏡を掛けたら肩書きは抜きだって。何のためにここまでいろいろしたと思ってるんだ。それに昨日約束しただろ。眼鏡の俺のことを『社長』って呼んだら?」


「そ、それは、社長が勝手に!」


「ん?また言ったな?」


そう言って腕を引かれ、距離を詰められると私の耳元で囁いた。



「キス、してくれるんだろ?みぃから」


そう言われた瞬間、私は、昨日のことを後悔した。
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