アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

私が笑うと、彼も口元をかすかに歪ませた。


「タンテイ……、ああ。Detective」


普段は日本語でも何の不自由もなさそうに見える彼だが、語彙(ごい)については多少の不自由もあるらしい。
彼は「探偵」という言葉の意味が不確かだったようで、英語で私に確認した。
しかし今度は私の英語が不確かだった。

「デ、デテクテブ……?」


私が首をかしげると、彼は身振りを交えて説明した。


「つかまえる人、Detective」
「ああ。そう、それそれ」

私は言いたい事が伝わった喜びに思わず手を打って微笑んだ。

「日本ではタンテイは多いの」


私は少し考えてから、窓から見える古い電柱を指差した。そこには消費者金融の広告や迷い犬のチラシなど、雑多な紙がべたべたと貼り付けられている。

「私は、実際に探偵をやってる人は見た事がないけれど、そこのチラシに浮気調査いたしますって書いてあるでしょ。あれはたぶん探偵の広告だと思う」

「『ウワキ』って……?」
「浮気は、ええっと」


そこまでの単語となると中学英語では絶対に教えない。追い詰められた私はスマホを取り出して「Cheating」という単語を導き出した。
ミハイルはスマホを覗き込んでその「Cheating」という表示を見るとくすくすと笑っていたずらっぽい口調で「アイジン……?」と囁いた。
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