アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

「カガンの王家の歴史は千年近くさかのぼることができます。
王宮で行われる式典などはそれは美しく荘厳なものです。

私も仕事の関係で何度かそれを見る機会に恵まれましたが……黄金と絹で飾られた宮殿の中をカガンの正装を身につけた貴族や衛兵がずらりと並んで……。本当に、言葉を失うほどきれいでした。古い伝統を残しているカガン王家は文化的にはみるべきものの多い国です。
ですが……」

そこで一旦言葉を切り、井出さんは表情を曇らせた。

「カガン王宮には21世紀になってもまだ後宮制度が残っています」
「こう、きゅう……」


誰からもそんな話を聞いたことがなかった私は一瞬、「こうきゅう」という日本語の意味すら理解することができなかった。
歴史の教科書で何度か目にした事がある程度の「後宮」と、井出さんの言葉が繋がるまでに少し時間がかかった。


「後宮です。
これは、カガンの王族が権力を誇示するためにそうしているとか、たんに王族が特権として漁色(ぎょしょく)にふけっているというわけではありません。

殿下のような……直系の王族はその血を絶やさないことが王族の義務として求められます。
ですから後宮という制度をもって、カガン王家はその直系の血を絶やさずに千年近く続いてきたのです。
かつての日本も同じ制度をとって高貴な血筋を絶やさないようにしてきました。後宮制度は何もカガンに限ったことではありません」

「……それ、は、つまり」


井出さんは頷いた。
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