アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

「今後を決めるのは私ではなく殿下とハルカ様です。
私は殿下がどのような道をお選びになっても生涯かけて殿下をお支えするつもりでおります。
ですが、私が今申し上げたことを今一度よくお考えください。
シンデレラストーリーは映画やドラマで楽しんでいるうちは愛の美しさを確認するよい材料になりますが、実際に当事者となってみると、犠牲の多いものです」

私はイリアスさんの顔を見上げて頷いた。


つりあわぬは不縁(ふえん)の基(もと)。

あまりにも大きな身分の差がある男女は結局離婚になることが多いという意味だ。
今ではほとんど聞かなくなり、時代遅れとも感じられる昔のことわざだ。けれど、私が身の回りで見聞きしなかっただけで身分の差は確かにある。



私はイリアスさんの入れてくれた紅茶を口に含んだ。
繊細でさわやかな香りが私を包み、冷えた体を温めていく。
私はまだ見ぬカガン宮廷の姿をその香りに我知らず投影していた。

遠い、私には縁のない高貴な香り……。
遠いからこそわずかな名残の時間をいつまでも惜しんでしまう。
いつまでもここにあれと、未練がましく縋りついてしまう。

私は天井を仰いだ。


だめだなぁ……。最初からシンデレラストーリーなんて望んでいなかったし、まともな結末の待っているような関係じゃなかったのに。

イリアスさんは黙りこくってなんとか気持ちに折り合いをつけようとしている私を、黙って待っていた。
まるで私の思考の動きが彼の目には見えているのではないかと思うほど、彼の話し方も、話を始めるタイミングも、すべてが憎いほど適切だった。



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