アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
「なるほど。
ここで、気になるのがさきほど見事な日本語をご披露くださったアエネアス・ミハイル・ユスティニアノス・ハザール・カガン殿下のことだと思いますが、こちらの写真をご覧ください」
小柄な女性キャスターが大きく引き伸ばした王子の子ども時代の写真を示した。
いつか私が見た、女の子のように可愛らしいミハイルの写真だ。
懐かしいその写真に私は思わず目を細めた。
「殿下は1996年生まれのちょうど二十歳で、ハザール・カガンの第一王子としてお生まれになり、王立士官学校を首席でご卒業。
日本でのお立場は学生といっておられましたが、カガンでは陸軍に所属されているようです」
次々と私の知らないミハイルの写真がテレビに映し出される。
何の儀式なのか、何メートルも引きずるほどの長いマントをかけた写真や、日本の大学キャンパスで撮ったと思しきいかにも学生といった写真もあった。
私は自分の知らなかったミハイルの姿をただ黙って見つめていた。
私の知っているミハイルは店にいるときの顔だけだった。
カガンの公式行事に参加している王子としてのミハイル。留学生として友達に囲まれて笑っているミハイルはまるで別人のように感じられた。いや、別人だったのかもしれない。
私が見ていたミハイルは特殊な情況の中での彼であり、心も体も傷ついた何も持たない青年だった。
テレビ画面の中に映し出される彼は明朗で美しく、私の見ていた壊れそうな繊細さは微塵も感じさせない。
「……さすがに、場慣れしていますね」
井出さんはテレビから視線を動かさないまま、私の隣で感心したように声を出した。
「そうですね」