アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
テレビカメラや報道陣の前で堂々と三ヶ国語を使い分けるミハイルはどこから見ても立派な『王子』だった。
私が庇わなければいけないような弱いミハイルはどこにもいない。
ミハイルがただひたすらに遠く、私は思った以上の距離に足がすくんでどこにも歩きだせない気がした。
テレビ画面ではミハイルと同じ大学の学生たちがインタビューに応じていた。
「えーっと、王子ですか。王子は親切で優しいし、普通の友達と変わりませんね。普通です。その辺の男子と一緒に笑ったりするし。
あ、一回雑誌のグラビアを見せたら『申し訳ないけれど見たくない』って言ってましたね。その辺かな、やっぱり王子様だなーって思うのは」
男子学生はテレビ用にとっておきのネタを出したつもりなのだろう、周りの学生たちと肘をつつきあって笑っている。
井出さんはそれを聞いて苦笑した。
「怖いな、学生は。
性の話題がタブーになっている国はいくらでもあるのに、よりによってカガンの王子にそんなことをしたのか」
「カガンでは、そうなんですか。
あー……つまり、性の話題のことです。タブーなんですか」
「ああ、そうですね。カガンは性そのものというよりは女性の貞節や肌の露出には厳しい目を向ける人が多い国です。
一般庶民でも膝丈スカートをはくのは外国人だけです。
……まあ、そもそも冬季の最低気温はマイナス40度になるような寒い国なので、肌を露出していてはすぐに凍傷になってしまいますから、健康を守るという意味でも露出は避けます」
私は恥ずかしくなってうつむいた。
性の話題すらタブーならば、私とミハイルの関係は当然モラルを踏み越えた関係だろう。
「すみません……」
「どうしてあなたが、……あ……。いや、そういうこととはまた、意味が違いますよ。私に謝るのもおかしいですし」
「そ、そうですよね」
私達は互いに気まずくなってへんな愛想笑いを顔に貼り付けたまま、お互いの視線から逃げるようにテレビに目をやった。
テレビには私の知っている顔が映っていた。さらりとした少し色素の薄い髪を肩にたらした色白の若い女の子。いつか、ミハイルの友人として店に来ていた子だ。