アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
画面の中のミハイルは、広間の奥、玉座の前に立つと、国民に向かって語りかけた。
彼が発するカガン語のエキゾチックな響きに私は陶然とテレビに見入った。
そのとき、画面下に小さく「ショッキングな映像が流れます。」という注意喚起のテロップが出た。ミハイルに見入っていた私はそのテロップに気付くのが一瞬遅れてしまった。
「カガン国民に宣言する。私、アエネアス・ミハイル・ユスティニアノス・ハザール・カガンは即位によりここに名を改め、ユスティニアノス9世を名乗ることとする。
私は今後、王位にある限りカガン国民の幸福のために努め、決して驕(おご)ることなく王の責務を果たすことをここに誓う」
彼はそこで表情を少し和らげた。
「今回のクーデターで多くのカガン人の命が失われ、傷つけられたもの、財産を不当に奪われたものもいることだろう。軍関係者がこのような暴虐に至った事、王族として、また同じ陸軍所属の将校として、僕はこれを恥ずかしく思う。また、」
その時、軍服を着た男たちが並んでいる一角から一人の軍人が飛び出してきて、ミハイルに駆け寄った。何かをカガン語で怒鳴っている。まだ十代だろうか、まだ学生のように若い男だ。
彼は走りながら刀を抜き、ミハイルに切りかかった。
それは、ミハイルが私に見せてくれた護身用の刀に似ていた。もちろんミハイルのそれよりも随分と簡素なつくりのものだったけれど、刃物には違いない。刀身は男の手元できらりと冷たい輝きを放っていた。
ミハイルの顔がわずかに動き、男を見た。
「やっ……」
テレビの中、遠いカガンでの出来事だというのに、私はまるで自分が襲われているような錯覚に襲われ両腕で自分の体を庇った。