アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
広間には銀の振り子のようなものが鎖で吊るされている。振り子は白い煙を細く吐き出しながら右へ左へと規則的にゆれていた。テロップによるとこれは振り香炉というものらしい。
その香炉の下に、ミハイルの姿が映し出された。
すらりとした体にロイヤルブルーの軍服。そして右肩から綬(じゅ)を斜めにかけ、肩から2メートル以上ありそうな純白のローブを引いている。彼がゆっくりと踏み出すとその場の皆が新たな君主に敬礼した。
ミハイルは国内外の報道陣からカメラを向けられ、国中、いや世界中が彼に注目しても緊張した様子は微塵も見せなかった。
彼はまっすぐに前を見据え、辺りを払うような凛とした雰囲気を纏っていた。
そこに、この家にいたころの繊細な、ある意味弱さとも取れるあの優しい態度はおくびにも出さなかった。
「……」
私は声もなく、彼の姿を食い入るように見つめていた。
もう二度と会うことはない。それがミハイルという人なのだ。今までそう思っていたが、こういう形で再び彼を見ることもできるのだ。そう思うと全身が甘い喜びと罪悪感に満たされた。
彼は私を見ることはない。
そして私は何度も何度も彼に会う事ができる。それは自分の犯した罪を何度も何度もこういう形で突きつけられることでもある。
しかしそれでも私は彼を見たかった。
彼の凛とした横顔や、少し陰のある瞳が画面に映し出されるたびに罪悪感で心が痛んだ。
それでも私はテレビを消すこともチャンネルを変えるともできなかった。
苦しくても悲しくても、それでも彼が見たいのだ。
彼が世界のどこかで今も生きているということを感じていたかった。