アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
リポーターのその言葉を最後にまたテレビはいつものスタジオに切り替わった。
「すごい映像でしたね……」
「そうですね。新国王はまだ二十歳そこそこでしょう?お若いのに重圧を背負われて、私も同じくらいの年齢の息子がいますが、……うちの息子と比べちゃ申し訳ないんだけど……でもお気の毒だなと思いますよ。頑張っていただきたいですねえ」
スタジオのコメンテーターたちが流れた映像の感想を言い合っている。彼らはもうほとんどカメラの存在を忘れているようだ。それだけ映像は「本物」の怖さがあった。
暴力を知らないまま大人になったコメンテーターたちはそれ以上なんとコメントしていいのかわからない様子だった。
私もコメンテーターたちと同じだった。暴力を知らず、平和に生きてきた私はあんな恐ろしい目にあったことはない。
私はミハイルがいったい何と対峙(たいじ)するために国に帰っていったのかわかったつもりでいて、その実少しも彼の向き合う暴力にまで理解が及んでいなかった。
初めてはっきりとこの目で見た怖さに対してどう気持ちの折り合いをつけていいのかわからなかった。
私は映像の衝撃から立ち直れず、私は店の椅子に座りこんだまま胸に手を当てた。心臓がうるさいほどに音を立てていて息が苦しい。
「ミハイル……」
小さな呟きはひどくかすれていた。
私は唇を噛みしめた。
カガンの国民は少しもミハイルを大事にしてくれない。
重責を彼の肩に乗せて、自由を奪って、けれど……邪魔になれば殺そうとする。ミハイルの即位を喜んでいるカガン国民も確かにいるのに、私の中では先ほどの暴漢がカガン国民の総意のように思われた。
落ち着け。
私はひどく狼狽(ろうばい)し、冷静にものを考えられなくなっていた。
カガンの人々全員が彼を拒否するのなら、わざわざミハイルが帰る必要だってなかったはずだ。
けれど、彼は帰った。そこに彼なりの信念と希望があった。彼を必要とする人々がカガンにいた。だからこそ彼は帰ったのだ。
そうでなければ私は……私との恋は。