アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

私は涙をこぼしながら頷いた。ため息まじりのその言葉は私の心の傷を開き、疼(うず)かせた。
怒鳴ってくれればいいのに、ミハイルの声音は未だに甘い。

「何も言ってくれないんだね。
今、愛していると言ってくれたら、それが嘘でも僕は信じるよ。
だって、……僕はひとりぼっちだし、あなたのしでかしたことは今も信じたくないから」


私は答えなかった。彼の声ひとつで涙を流す、未練がましい自分を彼に知られたくなかった。

しばらく、双方口を開くことはなかった。
一分、二分が過ぎたころだろうか、ミハイルがようやっと口を開いた。

「……そう。言い訳はしないんだね。
あなたは、僕を裏切ったことを反省しようとか、自分が間違っていたとは……思わない。そういうことだね」

私は確かにミハイルを裏切った。けれどそれが間違っていたとは思わない。

今、やっと店が持ち直しているからそう思い始めたのではない。
ミハイルは強くなった。私にはそれがわかる。だから私達は別れなければいけなかったのだと、ようやっとそう思えるようになったのだ。

今も傷ついた彼の紫の瞳を思いだすたびに叫びだしたいほど胸が痛くなる。けれど。
今からでもカガンに行こう、間違ったところからやり直そう、決してそうは思えないのだ。

私達の運命は一瞬、ある一点で交差しただけであって、あとは互いに離れていくだけだ。
いずれ朽ちていくとわかっている恋を朽ちるままに眺めているなんてつらすぎる。
互いを想い合えているうちに終わりにしたいと思う気持ちは、まだミハイルにはわからないだろうか。


「……いいよ、わかった。

あなたの気持ちに後悔がないのなら、僕は、強い王になる。

誰も僕に逆らえないほどの強い王になって……いつかあなたを僕のものにする。
あなたが僕を待っていなくても、それでも僕はあなたを諦(あきら)めない。
あなたは無力で、意思が弱いから……僕がこの気持ちを手放しさえしなければ、あなたはきっといつか僕の後宮に住むようになるだろう。

……その時に勝つのは僕の意思だ。……あなたじゃない。
ハルカ、Я люблю 」


< 297 / 298 >

この作品をシェア

pagetop