アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

焼印を押し付けるかのような、その愛の告白を聞いていられなくなって、私は最後の「Я люблю тебя(愛してる)」を押し切るように受話器を置いた。
あの別れの日のように、滂沱(ぼうだ)と流れる涙がエプロンにいくつもしみを作った。



いつか、強い王になる。
あなたは僕の後宮に住むようになる。

踏みにじったはずの恋の灯はまだ、くすぶっていたのだ。


私のことなんか忘れたほうがいい。
あなたにはあなたの人生があり、私には私なりの人生がある。その道はもう二度と交差することはないのだ。
だから、忘れたほうがいい。


後宮なんて、とんでもない話だ。


涙を拭って顔を上げ、私は店の前の大通りに目をやった。
古い桜の木からはらはらと、透けるように薄い花びらが散っている。
私は桜の木に吸い寄せられるように店の外に出た。


見上げると、四月らしい薄曇りの空を背景に、満開の桜がひらいていた。
風が吹く度に枝が揺れ、花が散る。こうして立っているだけで足が散った花に埋まっていく。

咲いたそばから散ってしまう。
だからこそ桜は哀しくも美しい。
私の心のでくすぶり続けるなくした恋への未練も、ミハイルの執着も、すべてこの花のように散ってしまえばいい。
どこにも残らず、誰も知られず、私達の間にさえ残らず。

それでいいのだ。


花の香りを含んだ冷たい風がまた桜を散らした。
散った花が、涙に濡れた私の頬に、顎にひたりひたりと貼りついた。
私は涙を拭い、しばらくその場を動かなかった。


私はこの場所で生きていく。
前を向いて、空を見上げて、生きていく。
自分の道を、生きていく。



そう決めたのだ。






            完  2016.11.7
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