もしも、もしも、ね。


篠田は私の態度をものともせず、
ドカッと私の隣に座り込むと「疲れた」と腕を後ろにつき空を仰いだ。



「走らなくたってよかったのに。」

「逃げられると思ったんだよ。」



まさか、引きこもるとはね。

そう言って、篠田は体勢を普通に戻しあぐらをかいた。



「だって、出て行ったって教室の階まで一本道じゃない。

貴方に会っちゃう可能性が高いわ。

逆に引きこもれば、普通の人なら入って来れないわけだし。」



篠田が合い鍵持ってるとは思わなかった。

それが私の大誤算。

おかげで、私の切実な「夢から覚めて」という願いは脆くも崩れ去ってしまったわけ。

髪を掻き上げると、自慢の長い黒髪が視界でふわりと揺れた。



「へぇ。

あの状況で、そんな一瞬の判断できんだ。

さっすが。」

「オ褒メニ預カリ、光栄デス。」



そんな感心、嬉しくもなんともない。

相手が篠田ならなおさらのこと。

私はむっとして口を尖らせた。



「なんで棒読み?」

「気持ちがないからに決まってるじゃないの。」

「俺褒めてるんだけど。」

「だから別に褒められても何も思わないんだって。」



それともアンタがお礼でも欲しいわけ?

そう続けると、篠田は一瞬目を瞬かせてからクツクツと喉で笑った。


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