ケダモノ、148円ナリ
 変な趣味の人として広まりそうだ、と思っていると、誰かがロビーの外からこちらを覗いているのが見えた。

 真冬だ。

 ノースリーブは着ていないが。

「モスクワに居るんじゃなかったんですか」
と思わず呟くと、

「うち出てったの、さっきだろ」
と貴継が後ろから言ってくる。

 ちょっと、どきりとしてしまっていた。

 貴継の口から、『うち』という言葉が出たことに。

 そうなんですよね。

 貴継さんにとっては、もうあそこがうちなんですよね。

 だったら、もう、会社にも、あの屋敷にも――

 過去のものには囚われないでください、と思ったのだが、貴継の気持ちを思って言えなかった。

「行ってこい」
と背中を突かれる。

「俺がお前の出社は確認したから、会社には来てるってことで」

 お使いだ、と小銭を渡される。

「そこのコンビニで切手買ってこい。」

 切手、棚にあったけど、と思いながらも、はいっ、とそれを手に玄関を出た。




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