柔らかな彼女

翌日

そして、翌日。
どうしても彼女にあいたくて、昼休みも取らずに仕事して六時半に仕事を切り上げ
七時には”てまり”の前にいた。

昨日の今日でなんか恥ずかしいけど、こんなふうに女の子が気になるなんて初めて
で自分でもどうしていいかわからない。

カズにも声かけたが、今日は部の後輩と飲みに行くとのこと。で一人で来てしましました。

のれんをくぐり、引き戸を開けると彼女の声。

「いらっしゃいませ。」振り返る笑顔。

くーっ、今日もかわいい。俺の顔を見るとさらににこっと笑い
「須藤さん!いらっしゃいませ。今日はおひとりですか?お待ち合わせ?」

もう、名前で呼んでくれてる。

「今日は一人なんだ。」

「カウンターでよろしいですか?」

「はい。」

俺が座るのをまって

「お疲れ様です。どうぞ。」

とおしぼりを渡してくれる。

「お飲みものはおきまりですか?」

「生ビールください。」

「よろこんで。」にこっ

すぐに、ジョッキを片手に戻ってくる。

「お待たせしました。生ビールです。ご注文はおきまりですか?」

「一人でつまむには何がいいかな?」と聞くと

「須藤さん、好き嫌いはありますか?」
また、名前呼ばれた。まじ、うれしい。

「ないよ、なんでも大丈夫。」

「では、おつまみ三種盛りはいかがですか?これは、一品ずつの量を少なめにしているので
おすすめです。」

「じゃあ、それください。」

「よろこんで。」にこっ

そして運ばれてきたのは、マグロの赤身、ポテトサラダ、豚の角煮の三品。どれもうまい。
今日も店のあちこちから、「さあちゃん」と呼ばれている彼女が気になって、イライラそわそわ。

「すみませーん、生ひとつ。」
と追加して、持ってきてくれた彼女に気合をいれて声をかける。

「ねえ、他のお客さんみたいに、名前でよんでもいい?」

すると

「はい、紗亜矢っていいます。須藤さんのお好きなように呼んでください。」

「さ・あ・やちゃんで、さあちゃんなんだね。」

「はい。」にこっ

「まだ、二回目だけど料理も雰囲気も気に入ったので、また来ます。よろしくね。」

「こちらこそ、是非ごひいきにしてください。」

そんなこんなで、初めて行った週は4回。その後も、週三回のペースで通いつめ、
すでに二か月経過。

彼女との距離は、まったく縮まらず、彼女のファンの多さをさらに知る毎日に
心がくじけそうになっていた。




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